
その目やに、待っていい?フレンチブルドッグの目の危険サイン
はじめに
フレンチブルドッグの目は、犬のなかでもとりわけ傷つきやすい。英国の大規模調査では、短頭種の角膜潰瘍リスクはそうでない犬の11倍以上と報告されています。
やっかいなのは、痛みに気づきにくい構造になっていること。「様子を見よう」と一晚置いた翻朝に悪化している、ということが起こります。
この記事では、待っていいサインと待てないサインの線引きを中心に、家庭でできることを整理します。
短頭種は11倍、傷つきやすい
まず数字から。英国の一次診療データを解析した2017年の研究では、角膜潰瘍の年間発症率は犬全体で0.80%でした。
犬種別で見ると、パグが5.42%、ボクサーが4.98%、シーズーが3.45%、イングリッシュ・ブルドッグが2.41%。短頭種全体では、そうでない犬の11.18倍というオッズ比が算出されています。
フレンチブルドッグ単独の数字もあります。2021年に発表された同じデータベースの研究では、潰瘍性角膜炎を持つ個体が2.1%でした。
この差は、体質ではなく顔のかたちから来ています。
- 顔の骨が短く、眼球を収めるくぼみが浅い。その分、眼球が前に出ている
- まぶたの開きが相対的に大きい。ある研究では、この開きが10%広いだけで角膜潰瘍のリスクが3倍以上になると報告されています
- まぶたが完全に閉じきらないことがある(兔眼)。寝ているあいだも角膜が露出し続ける
- 涙の膜が崩れやすく、乾きやすい
- 目頭側の毛が角膜に触れ、小さな傷をつくり続けることがある
露出が多く、守りが薄く、乾きやすく、こすれている。四つが重なっているのです。
痛みに気づきにくいという落とし穴
もうひとつ、見落としやすい特徴があります。短頭種は角膜の知覚神経が乏しいとされています。
つまり、傷があっても痛がり方が弱い。犬自身が騒ぎ立てないので、飼い主も気づきません。
「ご飯を普通に食べているから大丈夫」「元気に走っているから大丈夫」。目に関しては、この判断が当てになりません。
さらに知覚の低下は、治りの遅さにもつながると考えられています。発見が遅れ、治りも遅い。だからこそ、飼い主が目で見て判断するしかないのです。
待てるサインと、待てないサイン
ここがこの記事の本題です。年中無休の病院が近くにある家庭は多くありません。線引きを持っておくだけで、迷いの時間が短くなります。
数日以内の受診でよさそうなサイン
- 透明〜白っぽい目やにが少し増えた
- 涙やけが少し濃くなった
- 軽い充血があるが、目はしっかり開いている
その日のうちに受診したいサイン
- 目を開けない、開けづらそうにしている
- 黄色〜緑色のどろっとした目やにが出ている
- 黒目に白い濁りや点が見える
- 前足でしつこくこする、顔を床や家具にこすりつける
- まぶしがって暗いところへ行きたがる
- 何かに目をぶつけた直後に異変が出た
- 眼球の形が変わって見える、突出が強くなった
- 目の異変に加えて、元気や食欲が落ちている
迷ったときの目安は、「痛がっているかどうか」です。フレンチブルドッグは痛みを表に出しにくいので、こする・しょぼしょぼさせる・開けないのどれかが出た時点で、すでに相当なことが起きていると考えてください。
目頭の赤い塊は、切らない
目頭にさくらんぼのような赤い塊が飛び出す。いわゆるチェリーアイ、第三眼瞼の腺が脫出した状態です。
英国の調査(2021年)では、1,802例のうちフレンチブルドッグが200例を占め、全体の11.10%でした。短頭種ではオッズが6.93倍。1歳未満の犬は2〜4歳の犬の10.82倍とされ、多くは1〜2歳までに初めて出ます。
ここで知っておいてほしいのは、治療方針です。
第三眼瞼の腺は、涙をつくる重要な器官です。これを切除してしまうと、生涯続くドライアイを招くリスクがあります。米国の獣医眼科の専門医団体も、切除ではなく元の位置に戻す整復術を第一選択としています。
整復術(ポケット法など)の成功率は92〜95%、再発は8%未満とされています。ただし手術後もドライアイのリスクは残るため、定期的な涙の量のチェックがすすめられます。
なお、日本語の情報サイトのなかには「整復術は再発しやすいので切除が推奨」と書いているものもあります。獣医眼科の主流とは逆の内容です。治療方針に迷ったときは、眼科に詳しい動物病院で相談してみてください。
毎日1分でできること
予防の中心は、特別なケアではなく「見る習慣」です。
朝と夜、顔を両手で持って左右の目を見比べる。目やにの色、開き具合の差、黒目の濁り。毎日見ていれば、変化に気づけます。
目やにを拭くときは、固まっていれば蒸しタオルを軽く当ててふやかしてから。目頭から外側へ、毛並みに沿ってやさしく。ごしごしこすらない、眼球の表面は拭かない。人のつばを使わない。この四つを守ってください。
環境側でできることもあります。
- 散歩で草むらや茂みに顔を突っ込ませない。植物の先端で黒目を傷つける事故は多い
- 車の窓から顔を出させない
- 鼻先の高さに尖った小物やおもちゃを置かない
- 扇風機やヒーターの風を顔に当て続けない。涙の膜の乾燥を助長します
- 多頭飼いでは、おもちゃやご飯の取り合いで目を引っかかれる事故がある。場所を分ける
治療中はエリザベスカラーを。ドーナツ型はストレスが少ない一方で、鼻先が出る分、前足が目に届いてしまうことがあります。目の保護が最優先の場面では、円錐型のほうが確実です。
そして7歳を過ぎたら、定期健診で目も見てもらうこと。白内障などは加齢とともに増えていきます。
よくある質問
Q. 目やにが毎朝出ます。病気でしょうか。
少量の透明〜白っぽい目やになら、大きな心配はいらないことが多いです。判断の基準は「いつもと違うかどうか」。色が黄緑色に変わった、量が急に増えた、片側だけ出るといった変化があれば受診を。
Q. 市販の目薬を使ってもいいですか。
人用の目薬は使わないでください。とくにステロイドが入ったものは、角膜に傷があるときに使うと悪化させる可能性があります。傷の有無は染色検査をしないと分からないため、自己判断は避けましょう。
Q. 角膜潰瘍を放っておくとどうなりますか。
浅い傷なら点眼で数日〜1〜2週間程度で改善することが多いです。しかし深くなると角膜が穿孔し、眼内の感染や視覚障害につながることがあります。数日の遅れが結果を大きく変えます。
Q. 治療費はどれくらいかかりますか。
角膜潰瘍の内科的な治療は、1回の診察・検査・薬を含めて数千円〜2万円程度という例があります。チェリーアイの整復術は、手術のみで10万円前後、検査・入院・術後検診を含めると20万円程度という例も。白内障手術は片目20万〜30万円が目安とされます。いずれも一例で、地域や病院、重症度で大きく変わります。
Q. ペット保険は目の病気に使えますか。
一般に、加入前に発症・診断されていた傷病は補償の対象外です。チェリーアイや眼瞼内反などの扱いは保険会社ごとに違うため、加入前に約款を確認してください。症状が出る前の加入が原則です。
まとめ
フレンチブルドッグの目は、顔のかたちそのものがリスクになっています。眼球が前に出て、まぶたが閉じきらず、乾きやすい。短頭種の角膜潰瘍リスクが11倍以上というのは、その結果です。
そして痛みに気づきにくい。この二つが重なるから、飼い主が見るしかないのです。
目を開けない、黄緑色の目やに、黒目の白い点、しつこくこする。この四つのどれかが出たら、その日のうちに。
朝と夜のひと目。それが一番の保険になります。

